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野球伝来150年 一球入魂と茨城 県南の高校 独自リーグ 多くの球児に活躍の場


2022年12月23日付読売新聞茨城版


「学生野球の父」と呼ばれた飛田穂洲(すいしゅう・水戸市出身)は、控え選手を「縁の下の力持ちとなってチームを助ける隠れた功労者」と称し、試合に向けて費やした努力の過程は、レギュラーも控えも同じだと主張した。努力する選手を思う姿勢は元号が令和となった今も、形を変えて県内の指導者に受け継がれている。

昨年11月、県南地域の高校3校は独自のリーグ戦「PCL」(Players Centered League)を始めた。企画した一人で、伊奈(つくばみらい市)の藤田大輔監督(39)は「選手に思い切り『打つ』『投げる』といった野球本来の面白さを感じてもらいつつ、選手と指導者が双方向で学べる機会を作りたかった」と語る。春、夏、秋にある高校野球の公式戦は、いずれもトーナメント制で、負ければ終わりの一発勝負。指導者は勝利を意識して主力選手に頼りがちな采配になったり、いき過ぎた指導をしてしまったりすることが少なくないという。PCLでも、各校は当然勝ちにこだわる。だが、指導者の暴言を禁止するなど、その名の通り「選手主役」を理念に掲げ、トーナメント制にはない独自ルールを設けている。例えば、より多くの選手に試合経験を積ませるため、指名打者制や、交代した選手が再出場できる「リエントリー制」を導入。選手の負担軽減やけが防止の観点から、1投手の投球数は1日100球までとし、変化球も2割以内に制限する。

 2回目となる今年、栃木県の1校を含め計6校が参加した。11月19日には牛久、土浦二、東風(かすみがうら市)の3校が総当たりで対戦。公式戦ユニフォームを着用した選手たちは、オーダーや戦術を自分たちで決め、好プレーには敵味方関係なく、賞賛の声を送った。試合後は、対戦校同士で互いの反省点や練習法を共有し合った。今年から参加した東風の桜庭裕也監督(49)は、「選手たちにプレーや結果について考える主体性が身についた」と目を細める。この日は3校とも所属全選手が複数イニングをプレー。日頃、出場機会に恵まれない選手にも活躍の場が与えられた。秋の公式戦でベンチ入りを逃した牛久の谷合春橙選手(2年)は、内野安打を放つなど打撃でアピール。「打撃を磨いて春以降はベンチ入りしたい」と意気込んだ。

 指導者へのメリットも大きい。牛久の竹内啓明監督(36)は「PCLはただの思い出作りではない」と強調する。これまで気づかなかった選手の長所の発見や、冬に克服すべき課題が見つかる機会となり、チーム力の強化につながるという。同校は今夏の県大会で強豪私学を破って8年ぶりの16強進出を果たすなど、結果も出始めている。野球人口の減少により、県内の高校では夏の大会の出場チーム数が10年前に比べて10減った。部員不足に悩み、合同チームで出場する学校も増えている。竹内監督は「高校野球を『やってよかった』と言ってもらえるような魅力ある大会にしていきたい」と語る。


◎PCLでの主な独自ルール

・選手は可能な限り全員が複数回打席や守備につく ・指名打者制や「リエントリー制」の採用が可能

・1投手1日100球まで ・配球のうち変化球は2割以内 ・指導者は攻撃時、三塁コーチを担当する

・対戦相手と勉強会を実施する ・指導者の暴言や罵声の禁止